ああとし子

冷たい雨が降っている。部屋がエアコンじゃ1時間や2時間じゃ温まらない。通勤電車で同棲カップルっぽい二人が小声で口喧嘩をしていて男が同じ話の繰り返しにウンザリしているみたいでいつもそれだから結局のところいつも何々が何々でと言っていたがそこは早口で聞き取れなかった。二人はいつも話していることだからお互いに聞き取れなかったとしても内容は伝わっている。いまあなたがいったこと、全部私も同じこと思ってるからねというようなことを女が言い返した。女は化粧が濃いためか顔に粉がふいていた。鼻が大きかった。大きな鼻の両脇についている目で男を見つめていた。

 

男の持っている傘の柄に農水部貸出用というシールが貼ってあった。昨日の午後から降りはじめた雨は今朝は雪やみぞれにならないのが不思議なほど冷たい。ああとし子。と私は言ったのだった。ああとし子、死ぬといふいまごろになって。